あいさつ

公益財団法人日本医療総合研究所
理事長 中野 千香子

 

 当研究所が「公益財団法人」として新たなスタートをきったのは、2013年4月1日、早いもので、まもなく5年目の春を迎えます。
 この間、多方面の皆様からご指導、ご助言を頂きながら運営してまいりました。研究・研修委員の皆様のご活躍もあり、季刊誌「国民医療」はなお一層の充実がはかられています。2016年12月に開催いたしました「医療・介護フォーラム」は、「何のための介護保険制度なのか?介護保険『卒業』の本質と介護離職問題から考える介護保障への課題」をテーマに、参加者の皆様とも意見交換ができる充実したものとなりました。
 今後も、国民の保健衛生の向上をめざし、求められる情報の発信や、研究活動の充実に努力していく所存です。

2017年3月24日

 


地域差イデオロギーとの対抗

横山 壽一(日本医療総合研究所副理事長、佛教大学教授)

 

緊迫する医療・介護をめぐる状況

 新年にあたり、一言挨拶を申し上げます。
 医療・福祉は、年明けから緊迫した状況を迎えています。社会保障・税一体改革として始まった社会保障全般の「効率化」=縮小は、経済・財政一体改革に引き継がれ、強化されてきました。財政赤字の主要な責任を社会保障に担わせ、社会保障費の見直し・削減なしには財政再建ありえないとの図式を描き、経済財政再生計画として取り組む主要改革80項目のうちの44項目に社会保障の項目を挙げ、それらを工程表に沿って実施・検討に移している段階です。それらのうちで来年度からの実施をねらう項目について政府は国会に法案を提出する予定で、1月20日からの通常国会で審議が始まります。主なものとして、介護保険の利用者負担増、介護給付金の総報酬割の導入、要介護認定率や介護給付費を削減した市町村への財政的インセンティブの導入、介護療養病床の廃止・転換などが予定されています。医療保険関係では、2015年に成立した医療保険改革法に盛り込まれた項目が順次実施されていく予定で、70歳以上の高額療養費制度の上限引き上げ、後期高齢者の保険料特例廃止、後期高齢者の窓口負担の引き上げなど、負担増の実施が目白押しです。
 今年は、さらに2018年度に予定されている診療報酬・介護報酬の同時改訂に向けて、多くの項目がとりまとめの作業に入ります。市販医薬品の保険給付外し、通所介護の保険給付外し、後発医薬品の価格見直し、生活習慣病治療薬の処方のあり方の見直し、かかりつけ薬剤師・薬局機能の強化、高額薬剤の薬価改定の見直しなどが挙がっています。

医療・介護提供体制の見直しと「地域差」縮小

 医療・介護の提供体制の見直しは、すでに動き始めていますが、新たな局面に入ります。
 その動きの中心となるのが地域医療構想の策定です。この策定は病床の機能分化を直接の内容としていますが、それにとどまらず、これを使った医療費抑制の新たな枠組みが意図されています。医療費の地域差の半減が目標に掲げられ、地域医療構想における医療需要の推計、医療費適正化計画に盛り込む医療に要する費用の見込み(支出目標)、さらには国民健康保険の都道府県化(2018年度)によって都道府県が市町村に示す標準保険料率の算定の基礎となる医療給付費の見込みなどの推計の際にこの「半減」目標で縛りをかけ、医療提供体制を通して医療費抑制を強めるとともに、抑制された医療費に合わせて医療提供体制を見直すことで医療費抑制のスパイラルをつくりあげることが意図されています。
 介護の提供体制についても、要介護認定率や一人当たり介護費の地域差等を分析したうえで給付費の適正化を進める新たな制度的枠組みを実施するとしており、ここでも地域差を問題にし、地域差の縮小を迫ることで提供体制の縮小を図る方法が導入されようとしています。
 しかし、地域差の縮小はどこまで取り組んでも終わりがありません。地域差の縮小は、医療費・介護費用の抑制が狙いですから、高いところだけでなくすべての地域に求められます。そうすると、それぞれの地域で頑張れば頑張るほど平均値あるいは基準値は下がり、地域差が広がることになります。したがって、終わりがありません。しかも頑張った分だけ楽になるのではなく、自分を苦しめることになるという地獄のゲームです。

自治体間の競争から連携そして自治の確立へ

 地域差の縮小は、政府による自治体間競争の組織化と自治の否定に他なりません。自治体をそれぞれ競わせて、政府が設定した医療費抑制へと向かわせる。政府にしてみれば、目標だけ設定しガイドラインを示し、自治体が自ら動く状況を作っておけば、あとは見守るだけでいい。これこそ究極の医療費抑制策というわけです。そこには、地域の違いがあっていい、それぞれが自分たちの地域の在り様を自分たちで決めていいという自治の発想は完全に否定されています。
 自治体がお互いに競い合う関係が続く限り、この地獄のゲームから抜け出すことはできません。自治体が相互に自治を尊重し合い、地域の違いを認め合う。そして、競争に終止符を打つ。このことによってしか、この状況から抜け出す道はありません。
 しかし、自治体の首長の対応に委ねるだけでは事態の打開はできません。それぞれの地域で住民と医療・介護関係者が地域医療構想、医療費適正化計画等の状況を把握し、自ら生活実態と医療・介護ニーズを分析・評価し、あるべき地域の計画を構想する。こうした地域から医療・介護を創り上げていく取り組みを進め、その実現を首長に迫り、地域医療構想等の計画の抜本的見直しを求めるとともに、他の自治体と連携して、国に対して政策の転換を迫る。時間はかかりますが、このような住民と首長の協力、自治体間の連携なしには、現下の医療・介護政策の転換はできません。
 地域医療構想の内容が明らかになるにつれ、住民、医師、医療関係者からも見直しを求める声が広がっています。地域に密着した医療・介護こそ自治が貫かれるべき施策であり、政府は自治を尊重し後押しする本来の役割に徹するべきであることを今こそ明確に打ち出し、かかる方向で地域の幅広い連携を実現していくことが求められています。いよいよ地域が主戦場となってきました。医療・介護の転換を迫り、新たな地域づくりを進めるために、日本医療総合研究所も大いに奮闘する所存です。今年もよろしくお願いします。

(『国民医療』2017年冬号No.333)