あいさつ

ごあいさつ

公益財団法人日本医療総合研究所
理事長 森田 しのぶ

 

当研究所は、2013年4月に「公益財団法人」として新たにスタートしてから7年が経過しました。
皆様からのご指導・ご助言や研究・研修委員の皆様のご活躍によって、「保健・医療・介護・福祉」に関する様々な調査研究活動・セミナー・研修会等の開催や季刊誌『国民医療』の発行など充実が図られています。
今般、新型コロナウイルス感染拡大によって、医療・福祉職場や国民生活は多大な制約・制限を強いられています。
新型コロナを経験して、日本の医療・社会保障施策の脆弱性が明らかとなり、新興感染症や災害など不測の事態においても、医療・社会保障充実のため、当研究所の果たす役割は益々大きいと感じています。
今後も、「保健・医療・介護・福祉」の向上と国民の保健衛生向上をめざし、調査・研究活動や情報発信の充実に努力していく所存ですので、よろしくお願いいたします。
また、当サイトに掲載しております『ニューズレター』もご活用いただければ幸いです。

2021年2月3日

 


コロナ禍で問われる人権保障

横山 壽一(公益財団法人日本医療総合研究所副理事長、佛教大学教授)

明けましておめでとうございます。年頭にあたり、一言あいさつを申し上げます。
昨年は、新型コロナウイルスの感染の拡大によって、労働や生活が大きく変わり、予定されていた多くの活動が中止や変更を余儀なくされました。新年こそと希望を抱こうとしたところ年末からの感染急拡大によって夢が絶たれ、コロナ禍への新たな覚悟を試される正月になってしまいました。
新型コロナウイルスは、無症状や軽症の比率が高いがその場合でも感染させる力があるという厄介な特徴を持っています。人から人への感染で仲間を広げていくウイルスがついに生み出した高等戦略という外ありません。感染者が重症化して動けなくなったり、短期間で亡くなってしまえば、感染を広げる機会がそれだけ少なくなるからです。ウイルスや細菌の進化に対応して人類もまた対応を進化させてきました。いま、その新たな戦いの渦中にあります。

人権確立目指した感染症との戦いの歴史

人類の対応への進化は、ワクチンの開発だけではありません。ペストは14世紀の大流行以降ヨーロッパを中心に周期的に流行を繰り返し多くの命を奪ってきましたが、これを契機に保健所や保健衛生官などが配置されるようになり、検疫制度も設けられました。19世紀半ばには、コレラの流行を契機に、ヨーロッパ各地で上下水道の管理など公衆衛生インフラの整備が進められ、20世紀初頭には国際衛生協定が締結され国際連携が始まりました。しかし、過ちや不幸な過去も少なくありません。ペストの流行ではユダヤ人の大規模な迫害が起きました。ハンセン病では病気に対する無知・無理解と差別・偏見によって、とりわけ日本で筆舌に尽くしがたい人権侵害を生み出したことは周知のとおりです。
感染症との戦いの歴史は、こうした出来事から、ウイルスや細菌との戦いであると同時に、社会の不備や誤りからも学びながら、人権を確立し生命や健康を第一義とする社会体制をめざす戦いの歴史でもあったことが分かります。このことは、例えウイルスや細菌を抑え込むことができない段階であっても、人権を最優先にした政策をとること、感染者への差別や偏見が生じないよう国は最大限の責任を果たすべきことを教えています。逆に言えば、人権を軽視すれば、被害を拡大したり差別や偏見を広げることになるということです。

人権軽視で被害が広がる日本

日本のコロナ対応はどうでしょうか。政府は、第一波のあと、ヨーロッパと比べれば感染者が少なく感染爆発も起きていないとして、日本の対応の成果を強調しました。しかし、検査件数は極端に少なく、相対的に少ない感染者でさえ医療機関はひっ迫した状況に直面しました。自粛を求められた事業者や労働者も大きな影響を受け、生活に重大な支障が生じました。感染拡大が始まった直後から繰り返し言われていた「検査の拡大による陽性者の把握で感染拡大防止を」「自粛は補償とセットで実施を」「感染症病床の大幅な増加と確保を」という生命と生活を最優先する対応が徹底されず、いずれも中途半端のまま、国民に対して自粛を求める動きだけが強まっていきました。その間、政府が行ったことと言えば、給付金に託けたマイナンバー・カードの拡大促進、アベノマスクの配布という無駄遣い、終息を見据えたGo toトラベルの前倒し実施の検討などでした。そのいずれもが、生命や健康ではなく国や事業者の利益を最優先し、自らの利害のためにこの機を利用しようとする意図が見え透いた動きでした。
こうした人権の軽視が、さらに被害を広げているのがいまの状況です。一旦は感染者が減少傾向を見せたものの、緊急事態宣言が解除されたあと再び上昇へ転じたそのさなかに感染リスクを高めるGo toトラベルが前倒しで始められ、その後感染者が増大。夏場にやや減ったものの10月には感染拡大が加速、にもかかわらず経済との両立を理由にGo toトラベルは続行され、感染急拡大を招きました。それでもPCR検査は進まず、今なお症状があっても検査が受けられない状態が生じています。感染症病床の確保が遅れたことで医療崩壊が現実化、感染拡大を抑え込むための営業自粛も補償なしで進まず。人権軽視と無為・無策で追い込まれた挙句の方針転換と後手後手の対応が、国民の不信とさらなる危機を引き起こす最悪の事態に陥っています。

人権保障の旗を掲げていざ決戦へ

コロナの感染拡大という危機のもとでは、社会が抱える構造的な問題が浮き彫りになり、政治の姿勢が被害の度合いを大きく左右します。いま起きていることは、20年にも及ぶ構造改革という新自由主義による社会改造が、病床を減らし、医師・看護師養成を抑止し、公衆衛生を弱体化させて生命と生活を危機に晒し、新自由主義に固執する姿勢がさらに国民を危機に追いやっているという目を覆うばかりの現実です。生命と生活を守るためには、政治と政策の転換が不可欠であることは誰の目にも明らかです。人権保障の旗を高く掲げ、地域と国政の双方から転換を迫り、来るべき総選挙で決着をつけなければなりません。今年は、文字通り人権を懸けた決戦の年です。

『国民医療』2021年冬号No.349より