あいさつ

ごあいさつ

公益財団法人日本医療総合研究所
理事長 佐々木 悦子

 

当研究所は、2013年4月に「公益財団法人」として新たにスタートしてから10年目となりました。この間の皆様からのご指導・ご助言や研究・研修委員の皆様のご活躍によって、「保険・医療・介護・福祉」に関する様々な調査研究活動、セミナー・研修会等の開催や、季刊誌「国民医療」の発行など充実が図られています。
今般の新型コロナウイルス感染拡大によって、日本の医療・介護提供体制や社会保障のぜい弱さが浮き彫りになりました。新興・再興感染症や災害など不測の事態においても、医療・社会保障充実のため当研究所の果たす役割は大きいと感じております。
引き続き、「保健・医療・介護・福祉」の向上と国民の保健衛生向上をめざし、調査・研究活動や情報発信の充実に努める所存です。今後とも、よろしくお願い致します。

2022年8月4日

 


惨事便乗型の復興ではなく、地元の実情に応じた地域づくりを

長友 薫輝(公益財団法人日本医療総合研究所副理事長、佛教大学社会福祉学部准教授)

 

能登半島地震に際して

2024年元旦に起きた能登半島地震によって、232名の方々が亡くなり、安否不明となっている方が12名おられます(2024年1月21日現在)。深く哀悼の意を表します。

避難生活を余儀なくされている方々は同日現在で1万2,000人を超えています。特に水道や道路などが切断されており、復旧の見込みが立たない地域が多くあります。家屋の被害も甚大で、全容を把握するまでには相当な時間を要すると報道されています。現時点では、ライフラインの復旧に時間を要するため、集団での2次避難なども行われています。

被災直後から、各医療機関や社会福祉施設・介護施設等では、職員の方々自身も被災しているにもかかわらず、懸命の対応が続いています。

地域の実情に応じた体制づくりを

そのような中で、2024年1月13日の北國新聞記事によると、馳・石川県知事は能登半島2市2町の公立病院を再編統合した「能登統合病院建設計画案」を語り、新年度早々にも当該自治体との協議を開始したいとしています。詳細は今後明らかになるものと思われますが、記事等によれば、能登空港隣接地に新たな病院を建設し、併せて集住する地域を開発する予定のようです。

再編統合して建設する意向の新たな統合病院は「創造的復興には不可欠」(馳・石川県知事)とのことですが、果たして本当にそうなのか、検証した上で方針を決定する必要があります。

東日本大震災で被災した地域において、惨事便乗型の構造改革が進められたことは記憶に新しいところです。その際に高頻度で使用された用語に、「創造的復興」というものがあります。今回の馳・石川県知事が使用した「創造的復興」という文字には、惨事便乗型の復興を想起せざるを得ません。

能登半島地震の被災地地域において、そのような改革が展開されないよう、何よりも地域住民の参加を得て、地域づくりの一環で地域医療の供給体制や地域包括ケアの体制等を構築していく必要があります。

東日本大震災をはじめ近年、被災した地域では、日常生活圏内での保健、医療、介護等の対人ケアの提供と、災害時にも対応できる体制づくりの必要性が急務とされてきました。ところが、広域でのみ地域をとらえ、医療供給体制では機能を集約する形で再編しようとする政策動向が強まっている現状にあります。広域かつ日常生活圏で地域をとらえ、住民参加のもとに地域づくりを進め、医療供給体制や地域包括ケアの体制づくりを展開することが必要です。

コロナ禍での惨事便乗型政策展開

震災だけでなく、直近ではコロナ禍を援用する手法で、デジタル化の推進など、惨事便乗型の政策が展開されています。

そもそも、着手すべきはコロナ禍で疲弊した現場が改善される政策展開です。そのためには、コロナ禍で起きた事象を検証することが重要です。政府や自治体など、各地域において自治体間・自治体内の情報共有、保健・公衆衛生部門との連携、医療、介護、社会福祉等の現場・専門職との連携状況など、それぞれにおいて検証する必要があります。

実際に、コロナ禍での検証をおこない、その結果を公開している自治体は非常に少ない現状です。感染症の蔓延のみならず、震災などの自然災害への防災という観点からも、コロナ禍で起きた事象を検証し、今後の課題解決を図っておかなければなりません。

そのうえで、これまで実施されてきた公的医療費抑制策の見直しや転換、公衆衛生機能の強化を図ることが視野に入ってくるものと思われます。ところが、現状としてはコロナ禍となる以前に決定した政策内容が粛々と実行され、医療供給体制の集約再編などが企図されています。

対人ケア労働等への政策的対応

対人ケア労働の現場で働く人々の給与水準は人権保障の尺度でもあります。これまでの震災やコロナ禍で得たことをふまえて、医療をはじめとする供給体制の維持・拡充はもちろんのこと、保健・医療・介護・社会福祉の対人ケア労働現場で奮闘する職員や自治体職員への社会的評価を高める施策が必要です。

具体的には、給与水準の大幅な引き上げを中心に、職員が働き続けることができる職場への転換が必要です。余裕ある人員体制となるよう、常態化している人員不足の解決を図る施策の展開が急務です。

人権保障のにない手である対人ケア労働の改善を図ることで、人間相手の仕事が評価される社会が実現し、人間が大切にされる社会が形成されます。そのためには、住民とともに対人ケア労働や公務労働に関わる人々が共同で努力し地域づくりを図ることが重要です。

能登半島地震によって被災した地域をはじめ、各地の人口減少地域において、医療提供体制の再編・統合を進める一辺倒な手法ではない政策展開が必要だと考えています。住民参加のもとに医療供給体制や地域包括ケアの体制づくりを進めることが求められています。

『国民医療』2024年冬号No.361より