ごあいさつ
理事長 佐々木 悦子
当研究所は、2013年4月に「公益財団法人」として新たにスタートしてから10年目となりました。この間の皆様からのご指導・ご助言や研究・研修委員の皆様のご活躍によって、「保険・医療・介護・福祉」に関する様々な調査研究活動、セミナー・研修会等の開催や、季刊誌「国民医療」の発行など充実が図られています。
今般の新型コロナウイルス感染拡大によって、日本の医療・介護提供体制や社会保障のぜい弱さが浮き彫りになりました。新興・再興感染症や災害など不測の事態においても、医療・社会保障充実のため当研究所の果たす役割は大きいと感じております。
引き続き、「保健・医療・介護・福祉」の向上と国民の保健衛生向上をめざし、調査・研究活動や情報発信の充実に努める所存です。今後とも、よろしくお願い致します。
全世代型社会保障改革の動向をふまえて ~地域の実態に応じた、科学的な根拠にもとづく政策展開を~
年頭にあたり、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
当研究所は前身の財団法人日本医療労働会館・国民医療研究所から、2013年4月に公益財団法人日本医療総合研究所となり、今年で10周年を迎えます。多くのみなさまから格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
昨今の医療をはじめ社会保障をめぐる情勢をふまえて、研究所に寄せられるご期待に対し、社会的意義、役割をより正確に果たすことができるよう、研究活動をみなさまとともに進めてまいりたいと考えております。
コロナ禍における現場の改善に向けて
コロナ禍で、現在は第8波の最中にあり、感染者数も多く、これまでで最も大きい波となっています。この波をいかにコントロールするかが政府の役割です。ところが、これまでは現場の対応に依拠することが中心で、人々の自己責任に依存するような政策的対応がなされてきました。コロナ禍はほぼ「人災」であり、政府によるミスリードであるといえます。
結果として、医療現場はもちろんのこと、介護や社会福祉などの現場では、コロナ禍における感染防止対策等で、高い緊張状態が長く強いられている現状です。コロナ禍となる以前から、各現場では人材不足が常態化しており、コロナ禍で疲弊した労働者が退職するという事態が各地で起きています。
1980年代から継続する公的医療費抑制策の転換を図り、これまでの失策を直視し改善する政策展開が必要です。少なくとも、コロナ禍以前に立案した政策手段の中止や見直しの機会を作り、検証する作業が重要です。行政計画等に言及されているPDCAサイクルを、今こそ遂行すべきです。検証結果をもとに、地域の実態に応じた政策を展開することが求められています。
全世代型社会保障改革に対して
コロナ禍で起きている事態を直視し、現場が改善される政策的対応がなされる必要があります。ところが、現状としてはコロナ禍を援用する手法で、デジタル化の推進など、惨事便乗型の政策が中心となっています。なお、デジタル化は地域住民に対する管理手段の強化であり、搾取の徹底を意味するものです。ほんの少しのメリットを強調して、一方では私たちの個人情報を行政や大手企業等に提供する内容です。
安倍政権、菅政権、そして岸田政権と、社会保障に関する政策の骨子部分は通底しており、全世代型社会保障改革の推進がなされています。2022年12月には「全世代型社会保障構築会議報告書」がまとめられています。
同報告書では、目指すべき社会の方向性として、①「少子化・人口減少」の流れを変える、②これからも続く「超高齢社会」に備える、③「地域の支え合い」を強める、としています。
このような方向性が提示されるのは、現在、進められている全世代型社会保障改革が雇用・労働の改革に重心を置いた内容だからです。
今後の人口減少による労働力不足を補うため、労働規制がかからないフリーランス化を推進し、定年をどんどん引き上げて長く働いてもらい、そのために公的年金の支給開始年齢を引き上げ(2022年4月からは老齢基礎年金の受給開始年齢が75歳開始も可能となりました)、病気や要介護にならないように予防を奨励し(健康、予防に関わるビジネスを市場化し)、健康は自己責任でという内容を含んだ改革です。「人生100年時代」「生涯現役社会」などという用語が吹聴されているのはそのためです。
全世代型社会保障改革という名称ですが、中身は雇用・労働の改革を中心に据えたもので、雇用改革と社会保障改革が一体化したものです。これらの内容について、労働力確保という点で通底している政策として、それぞれの内容を把握することが重要だと思います。多様な働き方の推進として、政府が奨励する副業・兼業の推進などもその一環です。
地域の実態に応じた、科学的根拠に基づいた政策展開を
全世代型社会保障改革では、給付と負担のバランスや現役世代の負担上昇の抑制を図りながら、医療、介護、年金、少子化対策を始めとする社会保障全般の総合的な検討が進められています。
さらなる高齢者への負担増を含む改革内容を示したものであり、給付と負担のバランスという表現には留意しなければなりません。社会保障個人会計(個人が負担する税や社会保険料の範囲内に給付を抑える仕組み)の導入にも連動します。先に触れた全世代型社会保障構築会議報告書で「社会保障のDXに積極的に取り組む」ことを掲げており、マイナンバーカードの保険証利用を普及させるなど、推進を図っています。
加えて、地方自治体に対する地方統制の強化が目立ちます。公的医療費抑制のため、都道府県に給付抑制・管理の役割を持たせて、地域医療構想や医療費適正化計画等を手段として強化させています。
一方で、近年、相次いでいるのは非科学的な根拠に基づく政策です。未公表部分があるデータに基づいて政策を遂行するなど、看過できない事態が広がっています。
このような情勢の中、当研究所では調査・研究活動等を通じて、地域住民の実態に応じた政策展開がなされるよう、科学的根拠に基づいた社会保障の充実を図る政策展開を求めていきたいと考えています。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。